当クリニックでは、点滴スペースのモニター放映プログラムとして、絵画美術をテーマの一つとして選択することが多くあります。とはいえ、院長の私に芸術的知識があるわけではないので、絵画に深い知識を持っておられる原田マハさんの本はとても興味深く読んでいます。

書籍タイトルはThe Modern。ニューヨーク近代美術館(MoMA)を中心に、2011年、1999年、1981年、2001年、2000年と様々な時代をかけめぐっていきます。アンドリューワイエスやピカソなどの近代絵画美術を軸として、心にしっかりと触れる物語5編で構成されていました。原田さんのMoMA勤務での経験と知識がしっかりと土台を支えていて、飾りすぎることのない、洗練されたタッチで物語が展開していきます。

9.11同時多発テロや福島原発事故とも絡んで物語はすすみます。私は、9.11の時はカリフォルニアのパロアルトに、福島原発事故の時は東京に、それぞれ事態の中心地からは少し離れたところに住んでいたものの、色々な苦労を体験したことを思い出しました。9.11の直後、1週間ほどはほぼ毎日、1日に12回、病院全館でアラームがけたたましくなりました。その都度、病院外敷地の駐車場を目指して、ベッド臥床の患者さんのベッドや医療機械を押しながら、列をなして避難していました。一般通行の人も、学生さんも、職員さんも、とにかくそこにたまたま居合わせたみんながベッドを押して駐車場を目指していました。この時に印象に残ったのは、この避難が特段の緊張感はなく、しかし、めんどくさ感もなく、はじめて出くわした人たちの日常談義を楽しむ時間のように、毎回時間が過ぎていたことでした。アラームが鳴り止むまで30分の時があれば1時間の時も。雲一つないカリフォルニアの青空はいつも上空で暖かく待っていてくれて、このような時間も味わい方によっては悪くないなと避難しながら話あっていたものでした。

そして、最後の章で登場する、お箸を交差させてX状にしたディスプレイ、私も遭遇してドキッとしたことがあります。私が出会ったのはWilliams Sonomaというキッチン雑貨屋さんだったかな。お椀にもったご飯にX状に箸がつきささっているディスプレイでした。やんわりと、日本的な感じ方を店員さんにコメントしたことも思い出しました。そのようなふとした体験をきちっと思い出させてくれる原田マハさんの企画力にも感動の1冊でした。