アナザースカイというTV番組では、本業とは異なる観点で、その人にとっての転機となった街を紹介してくれます。その街が持つ独特の個性と個人の感性がいかに触れ合ったか、そして街との関係を振り返りながらのコメントは感性の多様性も勉強させてくれます。

 番組を観ていると、私にとってのアナザースカイはどこ?とふと考えます。頭に浮かぶ街の一つがシアトルです。1998年、シアトルのワシントン大学に在籍していました。肝臓再生研究のプロジェクトを立ち上げて、大学の中をとても忙しく動き回っていました。研究は論文という形で残りましたが、記憶には研究以外の事がたくさん残りました。たぶん研究以外の出来事が生活をしっかりとサポートしてくれていたのだと思います。

 夕陽がそそぐPuget Soundがそれは美しく輝いていたのをカフェテリアからながめていたこと。知り合った方々から食事内容などで健康を気遣っていただいたこと。2階の回廊からはレーニエ山が眺めることができる美しい図書館で資料を読みあさったこと。ほぼ毎日Seattle’s Bestのコーヒーとクラムチャウダーの朝食をデスクで楽しんだこと。研究室の同僚が交通事故で亡くなってしまい学会で教授が追悼講演をしたこと。私のプロジェクトでそれは大変お世話になった同僚が、とあるCaféで銃乱射事件に巻き込まれ大手術を受けたこと。ほぼ毎土曜日にはサンフランシスコベイエリアから来てくれる妻を迎えにSea-Tac空港に迎えに行ったこと。

 そのシアトルで焙煎された豆でできているSeattle Espress(Kona Blend)というコーヒー豆を知人から頂きました。Seattle’s Bestと比較するとひと捻りきいていて、すこしエキゾチックな香りも駆け抜けます。Tully’sと比較するとやさしめの印象。香りが1998年のシアトルライフの記憶を映し出してくれる優しいコーヒーでした。