「ポルトガル人、サウダーデの言葉、聞くだけで泣きます」。神戸ポルトガル大使館でヴェンセスラオ・デ・モラエスが主催した宴会で奏でられたファドを初めて聞きながら妻“およね”がモラエスの口にする言葉を思い出すシーン。モラエスは、日本を愛し、日本の美しさ・日本の人々をポルトガルへ、さらに世界へと紹介することに尽力しました。この本では、ポルトガル人が感じ取った日本感について浅田次郎が膨大な取材を基に我々に逆紹介してくれています。浅田次郎が心筋梗塞のため執筆途中で死去の後、ご子息の藤原正彦が改めて取材を重ねてモラエスの最後まで書き遂げた長編。お2人が心の底からモラエスを尊敬されていることがひしひしと伝わってくる力作、大作です。

自分にとってのサウダーデは? 本を読みながらよく眼にうかんだ光景は、パロアルトのひなびたカフェですごす日曜の午前10時ころ。木造、平屋の店の前にわずかな軒下があり、コーヒーとスコーンを丸い小さなテーブルにおいて、日曜の新聞を読んでくつろいでいる風景。テーブルは中に3つほど、外に3つほどの小さなお店。店員はお兄さん1人、お客は数人。風はさわやかで、車とジョギングしている人がたまに横を通って行く。マフィンでもなく、ドーナツでもなく、なぜかこのシーンではいつもスコーン。今となっては、具体的な場所は思い出せないけれど、体の中、頭の中のいろんなわだかまりを洗い流してくれるとっても大切なひと時という記憶がよみがえりました。