胃がんや胃・十二指腸潰瘍の発生には、ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)感染による萎縮性胃炎が多くの場合に関連すると広く認識されています。萎縮性胃炎とは、胃粘膜の炎症が長期間続くことで胃粘膜の増殖力が低くなり、胃の粘膜が薄く脆弱になることを意味します。胃カメラ検査の際に、萎縮の広がりを把握する為にも、組織生検を行って病理顕微鏡検査を行うこともあります。顕微鏡所見としては、胃の粘膜部の大半を占める胃底腺組織が減少して粘膜萎縮を起こすことが萎縮性胃炎の特徴です。ピロリ菌感染による萎縮性変化が強くなってくると、胃粘膜が腸粘膜の形質に置換してしまう腸上皮化生が生じる場合があります。ピロリ菌感染自体で胃がん発生リスクは高くなりますが、ピロリ菌感染に腸上皮化生が生じた場合は、さらに1.7-6.4倍胃がん発生リスクが高くなると報告されています。萎縮性胃炎の程度と状況を把握することは、胃がん発生を早期に検知することを目的とした胃カメラ検査の頻度を適切に設定する上で大切な情報となりえるものです。

2020.1.25(土)17時〜、上本町で開催された大阪消化器病フォーラムに参加し、川崎医科大学特任教授の春間賢先生から胃がんと胃炎検診としての胃カメラ所見の講演を聞きました。春間先生は、川崎医科大学を退職された現在も診療所や病院で勢力的に胃内視鏡診断に携わっておられる方です。一般的な胃炎の胃カメラ所見を復習するとともに、非常に稀な胃炎症例についてもきれいな画像で紹介いただきました。

当院では、2つのレーザー光源を搭載した経鼻内視鏡を用いて食道・胃・十二指腸の観察を行っております。レーザー光を用いることで、より鮮明に病変を描出することも可能で、これらの最新技術を駆使して、萎縮性胃炎の性状や広がり、そして早期胃がんの発見に努めております。

胃の出口付近のレーザー光源胃カメラ像。萎縮性変化が無いまたは軽度な方は、薄ピンク〜オレンジ色のなめらかな胃粘膜として観察できます。

腸上皮化生変化を伴う萎縮性胃炎の胃カメラ像。薄ピンク色の胃粘膜領域は少なく、視野の大半がレーザー光で白色調を呈しており、腸の粘膜上皮に胃が覆われている像として観察できます。