日常診療で、症状に応じて漢方薬の服用をお薦めすることがあります。漢方処方薬には100種類以上と多くの薬がありますが、その中でも、葛根湯は多くの方が名前を知っておられます。通常では、葛根湯は風邪薬として知られていますが、実は風邪症状以外にも様々な症状に効果を発揮する薬です。

落語のまくらで「葛根湯医者」という江戸時代の話が登場することがあります。どんな症状の患者が来ても、頭痛の患者でも、眼の症状の患者でも、葛根湯ばかりを処方する医者の噺を、やぶ医者のお笑い話として語られます。しかし、葛根湯の薬効を理解してみると、実は病気を適切に理解する名医の噺とも考えられます。

葛根湯が効果を発揮するイメージは、①体幹中心部(前側では頭から下腹部まで、背面頭から腰まで)の血流を改善して温める、②炎症を(少し)取り除く、の2つが中心で、つらいところをホットパックで温めるような効果をもたらしてくれます。ですから、風邪の初期症状でなんとなく寒くてゾクッとするという症状では、体の中心部を温めて、体調を整えてくれます。風邪をひいたかなという極初期に内服、ひどくなる前のタイミングを逃さないことも大切です。

ホットパックで温めるように治してくれるわけですからから、葛根湯の守備範囲は多様です。①肩や首のコリ、②肩コリを伴う頭痛、③腰痛・背部痛、④眼の疲労、眼の周りの筋肉の疲労、⑤結膜炎・角膜炎、⑤乳汁分泌不足や乳腺炎、⑥首などのリンパ節炎、⑦長く続く蕁麻疹など。多くの場面で活躍してくれています。

2021年11月20日(土曜)18時〜webで開催された「サイエンス漢方研究会」に参加し、日高徳州会病院院長の井齋偉矢先生から、日常診療における漢方薬の役割についての講演を聴き、漢方薬がぴったりな病態についての討論に参加しました。

最後に、葛根湯内服での要注意についてご連絡します。内服をして、尿が出にくいと感じた方(男性)、動悸感が強くなったと感じた方(男女共)は、内服を一旦中止してください。また、成分にシナモンが含まれているので、シナモンアレルギーの方には内服いただけません。