本日は、筋肉量を維持することが長寿生活に繋がるというお話をご紹介をします。心臓の病気で入院した場合でも、腹部の手術で入院した場合でも、1970年頃までは、ベッド上安静の期間を確保することが一般的でした。しかし、その後現在に至るまで、概念が大きく変わり、ベッド上安静はなるべく短期間とし、早期から歩行などの運動を行うことが種々の病態の回復を良くし、さらに病気の再発を防ぐ効果も発揮することが明らかとなってきました。
心臓病が進行して心不全となっている方はもとより、心臓疾患がなくても、糖尿病や高血圧、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喫煙を重ねている方においては、筋肉量が維持できていると、筋肉量が減っている場合と比較して、生命予後が有意差をもって長いことが報告されています。
1968年のこと、スウエーデンのRoyal Gymnastic Central InstituteのBengt Saltin博士が大変興味深い研究成果を報告しています。20歳くらいの元気な若者を募って20日間ベッド上で安静な生活を送ってもらいました。その結果、若者にもかかわらず、心臓からの血液拍出量が顕著に減少し、体の酸素摂取能力が低下してしまいました。これらは、安静な生活環境が、心臓の筋肉を薄くし、体全体をめぐる血液量を減らしてしまった結果と考えられています。20歳の若者でも運動をしないと、短期間に筋肉が衰え、心臓も衰えることが証明されたわけです。逆の論点でみれば、運動をして筋肉を維持していると、年齢が上となっても、全身の血液循環を良好に保つことができ、元気な生活を送ることに繋がると結論づけても良いと考えられます。
2024年5月18日、天王寺で開催された心臓・肺のリハビリテーション研究会に参加し大阪公立大学循環器内科講師の柴田敦先生から、筋肉維持と高血圧治療についての講演を聴きました。運動を続ける効果は、筋肉や心機能の維持だけにとどまるものではありません。骨密度を良好に保ち、関節の拘縮を防ぎ、静脈血栓症を予防し、消化管運動を良好に保つことで消化吸収の向上と排便促進(便秘の改善)をもたらすなど、体全体に良い影響を与えてくれます。10分、20分のウオーキングでも立派な運動になります。個人個人の状況が許す範囲で、毎日の運動の積み重ねは健康長寿にきっとプラスに働いてくれると考えます。